大判例

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東京高等裁判所 平成11年(ネ)5196号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、五万〇〇〇一円及びこれに対する平成一一年一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

本件は、江東区(被控訴人)内の鉄道駅の周辺に設置されている自転車駐車場を利用するための登録申請をした控訴人(大韓民国の国籍を有し在日韓国人である。)が、本名で呼称されたいとの明確な意思表示に反して被控訴人から通称名を用いて登録承認通知書・納入通知書の送付を受けたことによって人格権を侵害されたとして、被控訴人に対し、慰謝料の支払を求めた事案である。

当事者間に争いのない事実等並びに争点及びこれに対する双方の主張を含むその余の事案の概要は、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄記載のとおりである。

原審は、控訴人の登録申請に対して電算処理をして通称名を使用したことに違法はないと判断し、控訴人の本件請求を棄却した。そこで、控訴人から本件控訴が提起された。

当審における争点も、原審と同様であって、本件自転車登録処理手続において、披控訴人が控訴人からの明示の意思に反して控訴人の通称名による処理を行ったことが控訴人の人格権を侵害した違法な処置であるかどうかにある。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人が平成一〇年度の本件自転車利用者登録申請に際して本名で申請し本名での関係書類の交付を求めたのに対し、被控訴人が、電算処理による画一的取扱いをして控訴人の通称名によって登録承認通知書・納入通知書を控訴人に送付したことが、本件における具体的諸事情のもとにおいて違法であると認めることはできず、したがって、控訴人の本件請求は、結局のところ、理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決「第四 当裁判所の判断」欄記載のとおりである(ただし、原判決二二頁末行及び二三頁四行目の「利用登録票」を「利用登録証」に改める。)。

控訴人は、行政機関に対して通称名での呼称、取扱いを拒否し、本名での呼称、取扱いの要請を予め明示的に行っている者に対し、この明示の意思に反して行政手続の中で通称名で呼称し、取り扱うことは、明らかに憲法上保障されている基本的人権に反することであり、民法上も人格権の侵害として違法である旨主張する。

確かに、控訴人は、平成一〇年度の本件登録申請に際し、本名で申請し本名で関係書類の送付を求める旨の意思を表示しており、右の意思は、前年度の登録手続の際の控訴人の被控訴人に対する態度からも窺われたことであり、その意思は明確なものということができる。また、人の氏名は、人が個人として尊重される基礎であり、人格権の一部を構成するものであるから、人は氏名を正確に呼称される利益を有するということはできる。しかしながら、本件においては、被控訴人が、控訴人の氏名の表示を改変して使用したとか、不正確な通称名を使用したなどというものでないことは明らかである。また、控訴人の外国人登録においては、本名と共に通称名も記載されているところ、通称名は、当該外国人が日本国内において社会生活上それを使用していることを前提とし、その意思に基づき記載、登録されるものであり、これによって通称名による印鑑登録、印鑑証明書をも受けることができるなど、当該外国人の便宜を図る趣旨、目的を有するものであって、外国人登録における通称名記載の意義は決して軽いものではない(乙五ないし七。現に、控訴人自身、通称名の使用による便宜を感じなかったわけではないとの趣旨を述べてもいる-甲六。)。そして、本件の利用登録においては、大量の登録者について短期間に登録更新手続を促す通知をするなど多数の事務を処理する必要があることから、電算システム処理による画一的取扱い上、外国人登録において通称名が使用されている者については一律に通称名による手続を進めていたものである。多数の利用登録者に係るデータの管理や通知書類等の作成について電算処理における登録者マスターの対象から除外して別個に手作業による事務処理を行うことにより、利用登録に係る事務を錯綜させるなどの懸念もなくはないのであって、個別的手作業による処理が控訴人の指摘するほど容易なものであるとは必ずしもいえない(平成一一年度に係る控訴人に対する利用登録手続は、個別的な手作業により本名で行われている-弁論の全趣旨-が、このことから、右のような電算処理と別個に手作業による処理が容易なものであるとはたやすく断定できないというべきである。)。右にみた諸事情をはじめとする原判決認定に係る本件における諸事情に鑑みると、控訴人の本名による取扱いを求める意思が明確であるとの前記事情を考慮しても、被控訴人が控訴人の通称名を使用して手続を進めたことによって控訴人の人格権が侵害されたとまでは未だ認めることはできないというほかない。

以上によれば、控訴人の本件請求を理由がないとして棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤瑩子 裁判官 鈴木敏之 裁判官 小池一利)

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